飲食店経営を考える多くの人が気になるのが、実際の廃業率がどの程度なのかという現実的な数字です。
「好きな料理を提供したい」「地域に愛される店を作りたい」という想いで開業を検討していても、経営の厳しさや継続の難易度を知らずに始めるのは危険すぎます。
本記事では、最新の統計データをもとに飲食店の廃業率を業態別に詳しく分析し、長期経営を実現するための具体的な対策もあわせて解説します。
これから開業を予定している方や、現在経営に悩んでいる方にとって、データに基づいた判断材料となるでしょう。
飲食店全体の廃業率の現状
飲食店業界全体の廃業率は年々変動しており、特に2020年以降はコロナ禍の影響で大きく変化しています。
他業界との比較や最新の統計データから、飲食店経営の厳しい現実を数値で確認していきます。
飲食業界における廃業の実態を正確に把握するため、以下の3つの観点から詳しく見ていきましょう。
- 2024年の飲食店廃業率データ
- 他業界との廃業率比較分析
- コロナ禍が飲食店廃業率に与えた影響
2024年の飲食店廃業率データ
2024年の飲食店倒産件数は894件で過去最多を記録し、前年の768件から16.4%も増加しました。
中小企業庁の調査によると、飲食業の廃業率は5.6%（宿泊業含む）となっており、全業種なかで最も高い数値を示しています。
出典:「飲食店」の倒産動向調査（2024年）｜株式会社 帝国データバンク[TDB]
より詳細な分析では、飲食店の1年以内廃業率は約30%、3年以内では約50%に達するという厳しい現実があります。
つまり、新規開業した飲食店の半数が3年以内に廃業してしまう計算です。
これらの数字は、飲食業界への参入がいかに困難であるかを物語っています。
他業界との廃業率比較分析
「飲食店・宿泊業」の廃業率は、他業界と比較して際立って高い水準にあります。
日本政策金融公庫の調査によれば、「飲食店・宿泊業」の廃業率は14・7％で、全業種の中で最も高くなっています。
また、5年間の廃業率で見ても、全産業平均が28.4%であるのに対し、飲食業は32.2%、さらに「酒場・ビヤホール」に至っては39.8%と、特に高い数字が示されています。
※注：上記データは調査対象・手法が異なるため単純比較はできません。
コロナ禍が飲食店廃業率に与えた影響
2020年には倒産件数が780件まで急増しましたが、各種支援策の効果により2022年は452件まで抑制されました。
しかし、2023年以降は支援策の終了とゼロゼロ融資の返済開始により、再び倒産件数が急増に転じています。
物価高と人件費増加が小規模事業者の資金繰りを圧迫しており、特に個人経営の飲食店では経営継続が困難な状況が続いています。
コロナ禍で一時的に持ちこたえた店舗も、支援策終了後の本格的な経営力が問われる局面に入っています。
出典：飲食業の開業率と廃業率を調べるには/日本の飲食業基礎データ
年代別の飲食店廃業率推移
飲食店の廃業率を時系列で分析することで、業界全体のトレンドと経営継続の難易度が見えてきます。開業からの期間別生存率についても詳しく解説します。
長期的な視点での廃業率推移を理解することで、飲食店経営の実態をより深く把握できます。
以下の3つの期間に分けて分析していきましょう。
- 1990年代から現在までの廃業率変化
- 開業後「1年以内」「3年以内」の生存率
- 「10年」「20年」継続する飲食店の割合
1990年代から現在までの廃業率変化
1990年代後半から2000年代にかけて、我が国の廃業率は緩やかに上昇傾向を示しました。
2010年以降は一時的に低下の兆しを見せたものの、近年では再び上昇に転じています。
特に2020年以降はコロナ禍による影響が甚大で、飲食業を中心とした一時的な廃業件数の急増が確認されています。
この30年間の変化を見ると、飲食業界は景気変動や社会情勢の影響を受けやすい業界であることがわかります。
バブル崩壊後の長期不況、リーマンショック、そして新型コロナウイルスなど、外部環境の変化が直接的に経営に響く構造となっています。
開業後「1年以内」「3年以内」の生存率
開業後1年以内に廃業する飲食店の割合は約3割、3年以内では約5割に達するという極めて厳しい現実があります。
新規参入が比較的容易な業態ほど初期離脱が多い傾向にあり、特に個人経営の飲食店では資金繰りや人材確保の壁が立ちはだかります。
初年度から撤退を余儀なくされる例も少なくなく、開業前の事業計画の精度や市場調査の重要性が浮き彫りになっています。
成功する店舗との差は、開業準備の段階ですでに生まれているケースが多いのが実情です。
「10年」「20年」継続する飲食店の割合
飲食店が10年、20年と長期にわたって営業を継続するのは容易ではありません。
10年存続率は3割未満、20年では1割以下といわれており、これは他業界と比較しても非常に低い数値です。
長期経営を実現している店舗の特徴として、事業承継や業態転換への対応、地域密着での支持獲得などが挙げられます。
また、時代の変化に合わせた柔軟な経営方針を持ち続けることが、長期生存の鍵となっています。
業態別に見る飲食店の廃業率
業態によって廃業リスクには大きな違いがあり、それぞれ特有の課題や経営上の困難を抱えています。2024年の最新データをもとに、業態別の廃業傾向を詳しく分析します。
各業態の廃業状況を把握することで、自分が検討している業態のリスクを事前に理解できます。
以下の2つの観点から見ていきましょう。
- 2024年 酒場・中華・西洋・そば・うどんのお店が倒産多発の背景
- テイクアウト・デリバリー業態の廃業傾向
2024年 酒場・中華・西洋・そば・うどんのお店が倒産多発の背景
帝国データバンクの調査によると、2024年は酒場（212件）、中華料理店（158件）、西洋料理店（123件）などの業態で過去最多の倒産件数を記録しました。
背景には人件費上昇、客単価低迷、原価高騰など複合的な要因が絡んでいます。
特に酒場業態では、アルコール離れの進行や在宅勤務の定着により、従来の客層である会社員の利用頻度が大幅に減少しています。
中華料理店や西洋料理店でも、食材価格の高騰が利益を圧迫し、価格転嫁が困難な状況が続いています。
出典：「飲食店」の倒産動向調査（2024年）｜株式会社 帝国データバンク[TDB]
テイクアウト・デリバリー業態の廃業傾向
テイクアウト・デリバリー専門店を含むその他の一般飲食店においても65件の倒産が報告されています。
店内飲食がない業態でありながら、競合過多やリピーター不足、原価管理の難しさなどの問題に直面しています。
デリバリー業態では、配送手数料の負担や容器代などの追加コストが利益を圧迫する構造的な問題があります。
また、実店舗を持たないことで顧客との接点が限定され、ブランディングや差別化が困難になるケースも多く見られます。
出典：「飲食店」の倒産動向調査（2024年）｜株式会社 帝国データバンク[TDB]
飲食店が廃業に至る理由
廃業に至る要因は複数の問題が複合的に重なることが多く、事前の対策が可能なものも少なくありません。主要な廃業理由を詳しく分析し、回避策についても考えていきます。
廃業を避けるためには、まず廃業の主要因を正確に把握することが重要です。
以下の4つの観点から詳しく見ていきましょう。
- テナント・家賃の負担率が高い業態の落とし穴
- メニュー開発・差別化不足による客離れ
- 販促・集客の仕組みが未整備（SNS・デリバリー連携など）
- 食材廃棄ロスによる利益圧迫
テナント・家賃の負担率が高い業態の落とし穴
家賃が売上の3割を超えると廃業リスクが急激に高まるとされています。
駅近などの好立地は集客に有利ですが、高額な家賃負担によって黒字化のハードルが上がり、固定費バランスが崩れやすくなります。
特に小規模な個人店では、立地の良さだけに頼った経営戦略では限界があります。
家賃負担率を適正に保ちながら、商品力やサービスで差別化を図ることが持続可能な経営の鍵となります。
メニュー開発・差別化不足による客離れ
競合との差別化が不十分だと、固定客が定着せず価格競争に巻き込まれやすくなります。
小規模店の場合は、地域のニーズに即した品揃えや健康志向などの切り口で独自性を持たせることが重要です。
メニューの差別化は一度行えば終わりではなく、継続的な改善と顧客の声への対応が必要です。
季節感や地域性を活かした商品開発により、リピーターの獲得と客単価の向上を同時に実現できます。
販促・集客の仕組みが未整備（SNS・デリバリー連携など）
SNSやデリバリーサイトへの掲載が遅れ、集客ルートが確保できないまま売上が低迷するケースは数多く見られます。
販促にリソースを割けない個人店ほど、初期段階からの設計が肝要です。
現代の飲食店経営では、デジタルマーケティングの活用は必須条件となっています。
Instagram での視覚的な情報発信や、Google マイビジネスでの口コミ管理など、複数のチャネルを組み合わせた集客戦略が求められています。
食材廃棄ロスによる利益圧迫
飲食店では当日消費が基本の食材が多く、販売予測の失敗による廃棄ロスが営業損益に直結します。特に開業初期は日々の販売データを基に仕込み量を柔軟に調整する必要があります。
資金繰りを考える際に、廃棄ロスの管理は重要な要素の一つです。
データに基づいた仕込み計画の策定と、複数メニューでの食材共有などにより、廃棄率を最小限に抑える工夫が不可欠です。
飲食店の廃業率を下げるポイント
廃業リスクを下げるためには、戦略的なアプローチと継続的な改善が必要です。
成功している飲食店に共通する要素を分析し、実践可能な対策を具体的に解説します。
長期的に安定した経営を実現するため、以下の7つの重要なポイントについて詳しく見ていきましょう。
- 立地戦略と需要調査の精緻化
- 多チャネル販売＋サブスク型モデルの導入
- 食品ロスを抑える在庫管理・発注ルール
- メニュー更新と差別化のPDCA
- コストとキャッシュフローの最適化
- 地域コミュニティとの連携・ブランディング
- フランチャイズ参入による安定化戦略
立地戦略と需要調査の精緻化
飲食店は立地が命といわれるほど、場所選びは成功の重要な要素です。
小規模店は住宅街・駅近・オフィス街など日常ニーズの高い立地と相性が良く、現地調査と時間帯別の人流分析により、最適な開業場所を選定できます。
立地選定では家賃だけでなく、ターゲット客層の動線や競合店の配置も総合的に判断する必要があります。平日と休日、昼と夜の人の流れを実際に観察し、自店のコンセプトに合致するかを慎重に検証することが重要です。
多チャネル販売＋サブスク型モデルの導入
テイクアウト、Uber Eats、社食連携など複数チャネルで販売機会を拡大することで、売上の安定化を図れます。
月額定額でのランチ提供や、弁当予約などの工夫で継続的な収入源を確保しやすくなります。
サブスクリプション型のサービスは、顧客の囲い込みと売上予測の精度向上に効果的です。
地域の企業や住民向けに定期配食サービスを展開することで、安定した収益基盤を構築できます。
食品ロスを抑える在庫管理・発注ルール
複数メニューで共通素材を活用することで在庫ロスを大幅に抑えることができます。
販売データを基に仕込み量の最適化を図ることも、利益率向上には欠かせません。
在庫管理システムの導入や、日次・週次での廃棄率チェックを習慣化することで、無駄な仕入れを防げます。
また、閉店前の割引販売やスタッフ向けの食事提供なども、廃棄ロス削減の有効な手段となります。
メニュー更新と差別化のPDCA
季節商品や期間限定メニューでリピーター獲得を狙うことが重要です。
試食イベントやSNSでの反応を活かして改善を重ねるPDCAサイクルが、継続的な成長の鍵となります。
顧客の声を積極的に収集し、データに基づいたメニュー改善をおこなうことで、競合との差別化を図れます。
売上データと顧客満足度の両面から評価し、収益性と顧客満足のバランスを取ることが大切です。
コストとキャッシュフローの最適化
仕入先との価格交渉、光熱費の見直し、レジ締めの簡素化などでコストを着実に圧縮できます。
会計ソフトを活用して日次ベースの資金管理を習慣化することで、早期の経営判断が可能になります。
特にキャッシュフローの見える化は、資金ショートを防ぐ重要な対策です。
売上入金と支払いのタイミングを正確に把握し、必要に応じて支払い条件の調整や資金調達を検討する必要があります。
地域コミュニティとの連携・ブランディング
地域イベントへの参加や高齢者向け配食サービスなどで地域密着型のブランディングを図ることができます。口コミやリピーターの創出にもつながり、お祭りでのケータリングなどもおすすめの取り組みです。
地域との強いつながりは、景気変動に左右されにくい安定した顧客基盤を作り出します。
地元の食材を活用したメニュー開発や、地域の催事への積極的な参加により、愛される店づくりを進められます。
フランチャイズ参入による安定化戦略
飲食業態でもフランチャイズモデルを活用すれば、運営ノウハウや仕入ネットワークを享受できます。
複数拠点展開で収益安定も狙え、特に未経験者にとっては成功確率を高める有効な選択肢となります。
フランチャイズ参入では、ロイヤリティ負担と得られるサポートのバランスを慎重に評価する必要があります。ブランド力や集客力、継続的な経営支援の内容を総合的に判断し、長期的な収益性を検討することが重要です。
飲食店の廃業率についてのQ&A
飲食店の廃業率について、よくある疑問や相談内容をQ&A形式でまとめました。
開業を検討している方や現在経営中の方の参考になる情報を提供します。
飲食店経営に関する代表的な質問について、以下の3つの観点からお答えします。
- 飲食店の廃業率はどれくらいですか？
- 飲食店を廃業する前に相談できる窓口や助成金はありますか？
- 飲食店のFCに参入すれば廃業率は低くできますか？
飲食店の廃業率はどれくらいですか？
飲食店の廃業率は業態や経営規模によって差がありますが、全体的には他業界と比較して高い水準にあります。
1年以内の廃業率は約30%、3年以内では約50%とされており、10年継続できる店舗は3割未満という厳しい現実があります。
ただし、適切な事業計画と継続的な改善努力により、これらの統計を上回る成功を収めることは十分可能です。
重要なのは、数字を恐れるのではなく、成功要因を理解して実践することです。
飲食店を廃業する前に相談できる窓口や助成金はありますか？
はい、中小企業庁や各自治体では、経営相談窓口や資金繰り支援制度を提供しています。
商工会議所や中小企業診断士による経営指導、金融機関での条件変更相談なども活用できます。
また、事業承継や業態転換に対する助成金制度もあり、廃業以外の選択肢を検討することも可能です。早めの相談により、経営改善の糸口を見つけられるケースも多くあります。
飲食店のFCに参入すれば廃業率は低くできますか？
廃業率が0になるわけではありませんが、廃業リスクを下げる有力な選択肢といえます。
実績あるブランド力や仕入れ、販促、運営ノウハウの共有が可能で、特に未経験者にとっては支援体制が充実しており、開業の失敗を防ぎやすいのがポイントです。
ただし、ロイヤリティやビジネスモデルについての理解が欠かせないため、資料請求をしてよく検討することが重要です。
複数のフランチャイズを比較し、自分の経営方針に合致するものを選ぶことが成功の鍵となります。
まとめ
飲食店の廃業率は年々変動しており、業態別・経営方法別にリスクは大きく異なります。
成功には戦略的な立地選定、商品設計、資金繰り管理が不可欠であり、特に開業後3年以内の生存率を高めるには、データに基づく経営判断と継続的な改善が重要です。
廃業率の高さに不安を感じるかもしれませんが、適切な準備と戦略的なアプローチにより、長期的に愛される店づくりは十分に可能です。
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