経営環境の厳しい飲食業界において、資金繰りの悪化は深刻な問題となっています。2023年の飲食店の倒産件数は、前年比70%増の768件に達し、過去10年で2番目に高い水準を記録しました。
この急増は、コロナ禍の影響から回復途上にある飲食業界の厳しい経営環境を反映しています。また、近年の原材料費高騰や人件費の上昇により、利益率の低下が進み、多くの店舗が資金繰りの改善を喫緊の課題となっているのです。本記事では、飲食店における資金繰り悪化の具体的な原因と、実践的な対策方法について詳しく解説していきます。
飲食店の資金繰りが悪化してしまう原因
飲食店の資金繰りが悪化してしまう原因は、以下の通りです。
- 顧客の減少
- 原材料費の高騰による利益率の低下
- 人手不足による人件費の増加
- 設備投資・修繕費用の負担
- 急な資金需要への対応不足
それぞれ詳しく解説します。
顧客の減少
飲食店経営において、顧客数の減少は直接的な売上低下につながる最も深刻な問題の一つです。日本フードサービス協会の外食産業市場動向調査によると、2023年の既存店売上高は2019年比で平均2.9%減少しており、業態によって回復度合いに差があります。この背景には、テイクアウトやデリバリーサービスの台頭による消費者行動の変化があります。
参照:http://www.jfnet.or.jp/
原材料費の高騰による利益率の低下
食材価格の上昇は飲食店の収益性を著しく圧迫しています。農林水産省の食品価格動向調査によると、2023年の主要食材の卸売価格は前年比で平均10.5%上昇しました。特に輸入食材は為替の影響もあり、15%以上の値上がりを記録しています。
飲食店.COMの調査では、約90%の飲食店が原材料費の高騰による影響を受けており、60%の店舗が仕入れ総額が10%〜30%増加したと回答しているのです。一方で、競争激化により販売価格への転嫁が難しく、メニュー価格の値上げを実施したのは26.5%にとどまっています。
参照:https://www.inshokuten.com/foodist/article/7153/
人手不足による人件費の増加
深刻な人材不足により、人件費が年々上昇しています。厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、飲食サービス業の平均月給は2023年に前年比2.8%増加しました。特に都市部では人材確保のための賃上げ圧力が強く、より高い上昇率を示しています。
また、従業員の定着率の低さも問題となっており、新規採用や教育研修にかかる費用が経営を圧迫しています。人件費削減は多くの飲食店が取り組む課題の一つとなっており、帝国データバンクの調査では、42.8%の店舗が人件費・光熱費などの削減に取り組んでいると回答していました。
設備投資・修繕費用の負担
店舗設備の維持管理にかかるコストは、多くの飲食店にとって大きな負担となっています。特に、衛生管理基準の厳格化やデジタル化への対応など、新たな投資が必要となるケースが増えています。
キャッシュレス決済システムの導入やオーダー管理システムの実装には、初期費用に加えて月額のランニングコストも発生するのです。また、定期的な店舗改装も必要となり、これらの費用が経営を圧迫する要因となっています。
飲食店の資金繰りに困らないためにできること
飲食店の資金繰りに困らないためにできることは、以下の通りです。
- 固定費を抑える
- キャッシュフローを正確に把握する
- 在庫管理を徹底する
- 売上を増やす工夫をする
- 支払いサイトの見直しを行う
それぞれ詳しく解説します。
固定費を抑える
飲食店の経営において、固定費の削減は資金繰りを改善する上で重要な取り組みです。固定費とは、売上の変動に関わらず一定額発生する費用のことを指します。具体的には、店舗の家賃、従業員の給与、水道光熱費などが該当します。
これらの固定費を見直し、可能な範囲で削減することで、資金繰りの改善につながります。例えば、店舗の立地を見直し、より家賃の安い場所に移転することも一つの選択肢です。また、従業員のシフト管理を最適化し、人件費を抑えることも効果的です。
さらに、水道光熱費については、省エネ設備の導入や従業員への節約意識の徹底により、削減が可能です。これらの取り組みを通じて、固定費を抑えることで、資金繰りの改善につながります。
キャッシュフローを正確に把握する
飲食店の資金繰りを改善するためには、キャッシュフローを正確に把握することが不可欠です。キャッシュフローとは、実際に店舗に入ってくるお金と出ていくお金の流れのことを指します。これを正確に把握することで、資金不足に陥るリスクを軽減できます。
具体的には、日々の売上や仕入れ、経費の支払いなどを細かく記録し、資金繰り表を作成することが重要です。この表を定期的に更新し、将来の資金の動きを予測することで、資金不足を事前に察知し、対策を講じることができます。
また、クレジットカード決済の入金タイミングや、固定費の支払い時期なども考慮に入れることが大切です。これらの情報を総合的に管理することで、より精度の高い資金管理が可能となります。
在庫管理を徹底する
飲食店の資金繰りを改善する上で、適切な在庫管理は非常に重要です。過剰な在庫は資金を無駄に拘束し、逆に在庫不足は機会損失につながります。そのため、適切な在庫レベルを維持することが資金繰りの改善に直結します。
具体的には、食材の使用頻度や消費期限を考慮し、必要最小限の在庫を保つことが大切です。また、季節や曜日による需要の変動を分析し、それに応じた仕入れ計画を立てることも効果的です。
さらに、在庫管理システムの導入も検討に値します。これにより、リアルタイムで在庫状況を把握し、適切な発注タイミングを逃さないようにすることができます。適切な在庫管理は、無駄な支出を抑え、資金の効率的な運用につながります。
売上を増やす工夫をする
飲食店の資金繰りを改善するためには、売上を増やすことも重要な戦略です。売上の増加は直接的に資金の流入につながり、資金繰りの改善に大きく寄与します。そのためには、顧客満足度の向上や新規顧客の獲得に注力する必要があります。
具体的には、メニューの見直しや季節限定商品の導入、接客サービスの向上などが考えられます。また、SNSを活用した効果的な宣伝活動や、ポイントカードなどの顧客還元システムの導入も売上増加に貢献します。
さらに、テイクアウトやデリバリーサービスの強化も検討に値します。これにより、店内での飲食以外の収入源を確保し、売上の安定化を図ることができます。常に顧客のニーズを把握し、それに応える努力を続けることが、売上増加につながります。
支払いサイトの見直しを行う
飲食店の資金繰りを改善する上で、支払いサイトの見直しは効果的な方法の一つです。支払いサイトとは、商品やサービスの納入から代金の支払いまでの期間のことを指します。この期間を適切に管理することで、資金の流出を調整し、資金繰りを改善することができます。
具体的には、仕入れ先との交渉により、支払いサイトを延長することが考えられます。例えば、従来の月末締め翌月末払いを、月末締め翌々月末払いに変更することで、資金の流出を1か月遅らせることができます。
一方で、顧客からの入金サイトは可能な限り短縮することが望ましいです。クレジットカード決済の場合、決済代行会社との契約内容を見直し、入金サイトを短縮できないか検討することも有効です。これらの取り組みにより、資金の流出入のバランスを改善し、資金繰りの安定化につながります。
飲食店が資金繰りに困る前に活用したい資金調達の方法
飲食店が資金繰りに困る前に活用したい資金調達方法は、以下の通りです。
- 銀行から融資を受ける
- クラウドファンディングを活用する
- 政府系金融機関を利用する
- リースを活用する
- 事業計画を立てて投資家を募る
それぞれ詳しく解説します。
銀行から融資を受ける
飲食店が資金調達を行う際、最も一般的な方法の一つが銀行からの融資です。銀行融資は、比較的低金利で大口の資金調達が可能であるため、多くの飲食店経営者が活用しています。
融資を受けるためには、まず事業計画書の作成が不可欠です。この計画書には、店舗のコンセプト、ターゲット顧客層、予想される売上や利益などを詳細に記載する必要があります。また、過去の経営実績や財務状況も重要な審査項目となります。
銀行融資を受ける際は、担保や保証人が必要になる場合もあります。ただし、最近では無担保・無保証人の融資商品も増えてきているので、自身の状況に合わせて選択することが可能です。銀行融資は安定した資金調達方法ですが、審査が厳しいため、十分な準備が必要です。
クラウドファンディングを活用する
近年、飲食店の資金調達方法として注目を集めているのが、クラウドファンディングです。これは、インターネットを通じて不特定多数の人々から小口の資金を募る方法です。従来の融資とは異なり、返済の必要がない場合が多いため、資金繰りの負担が軽減されるメリットがあります。
クラウドファンディングを成功させるためには、魅力的なプロジェクトの提案が不可欠です。例えば、地域の特産品を使った新メニューの開発や、店舗のリノベーションなど、支援者の共感を得られるプロジェクトを考案することが重要です。
また、支援者へのリターンを工夫することも成功の鍵となります。限定メニューの提供権や、店舗での優先予約権など、支援者が魅力を感じるリターンを設定することで、より多くの資金を集めることができます。クラウドファンディングは、資金調達だけでなく、店舗の宣伝効果も期待できる有効な手段です。
政府系金融機関を利用する
飲食店の資金調達において、政府系金融機関の利用も有効な選択肢の一つです。日本政策金融公庫や商工組合中央金庫などの政府系金融機関は、民間銀行と比べて比較的低金利で融資を受けられる可能性があります。
特に、創業時や新規事業展開時には、政府系金融機関の融資制度が有利に働くことがあります。例えば、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」は、創業時に必要な資金を無担保・無保証人で融資を受けられる可能性があります。
また、これらの機関では、経営相談や事業計画の策定支援なども行っているため、資金調達だけでなく、経営全般のサポートを受けることができます。政府系金融機関の利用は、安定した資金調達と経営支援を同時に受けられる点で、飲食店経営者にとって魅力的な選択肢となります。
リースを活用する
飲食店の資金調達方法として、リースの活用も効果的です。リースとは、必要な設備や機器を購入せずに、リース会社から借りて使用する方法です。これにより、初期投資を抑えつつ、最新の設備を導入することが可能となります。
飲食店では、厨房機器や冷蔵庫、レジなど、高額な設備が必要となります。これらをリースで調達することで、まとまった資金を用意する必要がなくなり、資金繰りの負担を軽減できます。また、リース料は経費として計上できるため、税務上のメリットもあります。
さらに、リースを利用することで、設備の更新や入れ替えが容易になります。飲食業界は技術革新が早いため、この点は大きなメリットとなります。ただし、長期的に見ると購入よりも総額で高くなる可能性もあるため、慎重に検討する必要があります。
事業計画を立てて投資家を募る
飲食店の資金調達方法として、投資家からの資金調達も有効な選択肢です。この方法では、事業計画を立て、その計画に共感する投資家を募ることで必要な資金を調達します。
投資家からの資金調達を成功させるためには、魅力的な事業計画の策定が不可欠です。計画には、店舗のコンセプト、ターゲット顧客層、予想される売上や利益、さらには将来の成長戦略などを詳細に記載する必要があります。また、自身の経験や実績、チームの強みなども明確に示すことが重要です。
投資家からの資金調達のメリットは、返済の必要がない点です。一方で、経営の一部を投資家と共有することになるため、意思決定の自由度が制限される可能性があります。しかし、経験豊富な投資家からアドバイスを得られるなど、資金以外のメリットも期待できます。
飲食店が資金繰りに失敗した場合に活用できる方法
飲食店が資金繰りに失敗した場合に活用できる方法は、以下の通りです。
- ファクタリングを行う
- 経費の見直しを徹底する
それぞれ詳しく解説します。
ファクタリングをおこなう
飲食店が資金繰りに困った際の有効な対策の一つに、ファクタリングがあります。ファクタリングとは、未回収の売掛金を専門業者に売却することで、即座に資金を調達する方法です。これにより、通常の支払いサイクルを待たずに、必要な資金を確保することができます。
ファクタリングの利点は、審査が比較的簡単で、短期間で資金調達が可能な点です。特に、クレジットカード決済の売上金などは、ファクタリングの対象として適しています。また、借入とは異なり、負債として計上されないため、財務状況への影響が少ないのも特徴です。
ただし、ファクタリング手数料が発生するため、コストを十分に考慮する必要があります。また、継続的な利用は経営の根本的な改善にはつながらないため、一時的な資金繰り改善の手段として活用することが望ましいでしょう。
経費の見直しを徹底する
飲食店の資金繰りを改善するためには、経費の見直しも重要です。固定費や変動費を細かく分析し、無駄な支出がないか確認することで、資金の流出を抑えられます。具体的には、以下のような項目を見直すことが効果的です。
- 食材の仕入れ先や仕入量の最適化
- 光熱費の削減(省エネ機器の導入など)
- 広告宣伝費の効率化(費用対効果の高い手法への集中)
- 人件費の見直し(シフト管理の最適化など)
ただし、経費削減が品質やサービスの低下につながらないよう注意が必要です。顧客満足度を維持しながら、効率的な経営を目指しましょう。
まとめ
飲食店の資金繰りを改善するためには、日々の管理と適切な対策が不可欠です。本記事で紹介した方法を実践することで、資金繰りの安定化を図ることができるでしょう。
具体的には、以下の点に注意して取り組むことが重要です。
- 資金繰り表を作成し、キャッシュフローを正確に把握する
- 固定費の削減や在庫管理の徹底により、支出を抑える
- 売上増加の工夫や支払いサイトの見直しにより、資金の流れを改善する
- 必要に応じて適切な資金調達方法を選択する
- 経費の見直しや売掛金の回収を早めるなど、日々の経営改善に取り組む
資金繰りの改善は一朝一夕には実現しませんが、継続的な努力により、安定した経営基盤を築くことができます。また、資金繰りに困った際には、早めに専門家や金融機関に相談することも重要です。
飲食店経営者の皆様は、これらの方法を参考に、自店の状況に合わせた最適な資金繰り改善策を見出し、実践していくことをおすすめします。適切な資金管理は、飲食店の長期的な成功と成長の鍵となるでしょう。